​「あなたが……光の巫女?」

​俺は目の前の女性に、驚きを隠せずに尋ねた。

​「はい、そうなのですよ」

​光の巫女――エクレール・ストレリチア。

初代魔人王と互いに手を取りあった人。しかしそれは数千年もの大昔の話のはず。

それだと言うのに、どうして光の巫女が俺の目の前に、実体を持って立っているんだ?

しかも、どうして名前が二つあるんだ?

俺の頭の中は混乱でいっぱいになった。

​「あっ! そうでしたね。この世界ではもう『苗字』という物は存在しないのですね」

​エクレールさんは、自分の名乗りが不自然だったことに気がついたように、わずかに首を傾げ、困ったように微笑んだ。

​「みょ、苗字?」

​苗字? 初めて聞く単語だ。この世界では、人々は名前一つで呼ばれている。

​「今はそのことは置いておくのです。今はあなたに、わたくしの主になって頂きたいのです」

​「あ、主ってことは、魔剣の主って意味ですか?」

​俺は手に握っている白い鞘の剣に視線を落とした。

​「はい、そうなのですよ。わたくしはその剣の中に宿っているのです」

​そう言ってエクレールさんは、ニコニコと穏やかな笑みを浮かべた。

その優しい笑顔と、フワフワと周りに漂う光の花びらのようなエフェクトが、彼女の非現実的な美しさを際立たせていた。

​「わたくしは是非とも、あなたに主になって欲しく思っているのですが、お嫌ですか?」

​その黄金の瞳は、俺の心の内側を静かに見透かしているように感じた。彼女の問いは、重い決断を迫っている。

​「……いいえ」

​俺は全身に力を込めてそう言い放った。魔剣の力を手に入れる。

それは、この世界で生きていく上で、何物にも代えがたい大きな力になるはずだ。

​「これは俺にとってチャンスなんです。魔剣の力を手に入れることができるチャンスが、今目の前にあるんです」

​俺の言葉の裏にある、力を求める切実さを彼女は感じ取ったようだ。

​「あなたはわたくしの力を手に入れたら、どうされるのですか? 世界を破壊しますか? それとも世界を豊かにするのですか?」

​エクレールさんは、静かに問いかけてきた。

その問いは、力を得る者の覚悟を問うているようだった。

​「……俺は、そのどちらもするつもりはありません」

​その言葉にエクレールさんは軽く目を見張った。

驚きというよりも、意外に思ったという表情だ。

しかし俺はそんな彼女を真っ直ぐ見つめながら言葉を続けた。