「だから彼は人間族でもあって、一応魔人族でもある。面白い奴が出てきたものだな」

​『ややこしいな。しかしお前の目的のためにも、あいつの血は必要なんだろう?』

​アルの言葉に、俺は軽く笑った。その視線は、粒子を斬り裂く刃の先で、遠くアレスの背中を捉えている。

​「ああ、だからとことん利用させてもらう」

​魔人の彼女、ソフィアと一緒に、彼――アレスにも俺の目的のために役立ってもらうつもりだ。

​『お前も怖い男になったな』

​「そうか? 俺は元からこんな人間だけど?」

​そう、俺は元からこんな人間だ。

アルたちと出会う前だって、家族の敵を討つために自分の命すら使おうとした馬鹿な奴だ。

どんな犠牲を払ってでも、俺は復讐を成し遂げるつもりだった。

​『なあ、ブラッド。もしお前とあいつが本気で戦ったら、どっちが勝つんだろうな』

​俺は黒い粒子を斬る手を一瞬止め、面白そうに笑った。

その笑みには、微かな挑発の色が滲んでいる。

​「当然、俺に決まってるだろ。あいつがいくら面白い血を持っていても、俺の経験には敵わない。剣の重さも、背負っているものの重さも、全てが違いすぎる」

​『ふん。言うようになったな。だけど油断するなよ。一瞬の油断が、お前の足下をすくう可能性だってあるんだからな』

​「忠告ども。まあ、心配すんな。いつか本気で戦ってみるのも悪くないと思ってるよ」

​でもそんな俺を、彼女は……光で包み込んでくれた。暗闇の中にいた俺に光をくれた彼女は、俺にとってかけがえのない存在だった。

​脳裏に彼女の姿が鮮明に映り、俺は胸元の翡翠石を強く掴んだ。

その冷たい感触が、俺を現実の使命に引き戻す。

​「あと少しだ……。もう少しで、お前に会える」

​その為にも、俺はこの世界を平和にする必要がある。

彼女が心から幸せになれる世界を作るためなら、俺はどんなことだってすると決めたんだ。

​「だから待っていてくれ、オフィーリア」

​ボソッと彼女の名前を呟き、俺は不気味に右目を紅く輝かせた。

その紅い瞳は、決意の炎を宿しているかのようだった。