魔剣の中で唯一、黒い粒子を浄化できる光剣エクレールをアレスに託した俺は、ザハラの付き人だったヨルンを相手に戦っていた。

​「くそ! くそ! くそ!!」

​ヨルンは憎悪を剥き出しに叫んでいる。

黒い粒子を嵐のように操るだけで、自分自身はその場から一歩も動こうとはしない。

その卑怯な戦い方に、俺は冷静さを保ったまま、剣を振るう。

​しかし、俺にとって黒い粒子なんて何でもない存在だ。

うん、全然怖くない。

俺は魔剣アムールを使って、次々と黒い粒子を斬り捨てていく。

​『おい、ブラッド。本当にあいつで良かったのか?』

​「何がだ? アル?」

​頭の中でアルの声が響く。

黒い粒子を斬り捨てながら、俺は呑気にアルと会話を続けた。

​『エクレールの主をあいつに選んで良かったのかって、聞いているんだ。あいつ、何も知らないだろ』

​「あ〜、そのこと? 別に誰でも良かったけど、あの中だと彼が一番適任だと思ってさ。他に候補がいなかったし」

​『誰でも良かったって……』

​アルはアレスのことが心底心配なのか、深く、長いため息を吐く。

人がただいま命がけの戦闘中だって言うのに、溜め息をついてもらいたくないんだけど……。

​「それにこれは、お前が大好きで仕方がないレーツェルだって、心から賛成してくれたことなんだぞ?その彼女の気持ちを裏切れって言うのか?」

​俺がそう言うと、アルは一瞬沈黙した。

​『お前……会った頃に比べたら、最近ますます調子に乗った口を聞くようになったな。そのうち殺すぞ』

​お〜……怖い怖い。本気で殺すぞ、と瞳が語っている。

​そう思い苦笑しながら、俺はアレスへと視線を戻す。そして、彼の存在を鑑定するように目を細めた。

​「それにあいつは、どういう体をしているのか知らないけど、魔人族の血と本来の血が上手く溶け合っている。身体の構造が、あらゆる魔力に対して高い適応性を示しているんだ。だからエクレールだったら、彼の力を最大限に引き出せると思ったんだ」

​どういう原理かは知らないが、彼の体の中には僅かながら魔人の血が流れている。

そしてその血は、彼の肉体に何の拒否反応もなく、完璧に同化している。

本来、魔人族の血が人間族の血に馴染むなんてことはあり得ないのだが、そのあり得ないことを実現させてしまったのが、彼――アレスなのだ。

それがエクレールを託す決め手となった。