「ロキ、ムニンを頼む」

「た、頼むって！」

ロキにムニンを預けた俺は、目を細めてヨルンを睨みつけた。その体からは、怒りと闘志が同時に湧き上がっていた。

「お前は今ここで食い止めないといけない存在だ。ソフィアのところには行かせない！」

「じゃあ、僕と戦うってことで良いですか？」

その言葉を聞いた俺は、ヨルンと距離を保ちながら魔法を発動する。

「光の精霊よ、その力をもって目の前の者を穿て、光の槍(ライト・ランス)！」

俺の背後に数多の光の槍が現れ、合図によってヨルンに一斉に飛んでいく。光の雨がヨルンに降り注ぐが、彼は涼しい顔でそれを受け止めた。

しかしヨルンは右手を掲げ、黒い粒子を盾にして光の槍を防いだ。そしてそのまま、黒い粒子たちはまるで腹を空かせた獣のように、美味しそうに魔法を食べていく。

「いくら魔法を放っても無駄ですよ？　連発したところで、僕に届くことは決してないです。逆にこの子たちに餌を与えるだけで、全くの無意味です」

するとヨルンは無造作に右手を動かし、美味しそうに魔法を食べていた黒い粒子たちに命令を下した。

「さあ、僕の可愛い黒い粒子たち。あの存在は僕にとって害悪なんだ。だから、食べちゃってもいいですよ」

その言葉を聞いた黒い粒子たちは、互いに顔を見合わせると嬉しそうに歓声をあげた。

「タ、ベル！　タベ、ル！　タ、ベ、ル！」

そして黒い粒子は俺に向かって津波のように飛んでくる。

「アレス！」

それを見た俺はすぐにロキの側に寄り、神の守り(ディバイン・シールド)を張った。しかしそのまま神の守りに衝突した黒い粒子は、神の守りを食べ始めた。シールドが音を立てて削られていく。

「こいつら、魔法なら何でも食っちまうのかよ！」

「そうですよ？　魔法は精霊の力を使って発動するものですから。言わば魔法は、精霊の力が集合した存在。強い魔法ほど黒い粒子たちは喜んで食らいつきます」

「ま、まじかよ……」

ヨルンの言葉を聞いて顔を青くしているロキを背後に、俺は頭を働かせる。

しかし魔力を食らうと言っても、必ず限界があるはずなんだ。

お腹いっぱいになって、もういらないってなるはずだ。いや、そうじゃないと俺たちに勝ち目はない。