「オ、イ、シ、イ、マ、リョク！ オ、イ、シ、イ、マ、リョク！」

「ヨコセ、ヨコセ、ヨコセ、ヨコセ！」

おぼつかない言葉で、黒い粒子たちはその言葉を何度も何度も繰り返していた。

その異様な光景に、俺は顔を青くし、数歩後ずさった。全身の血の気が引いていくような、底知れない恐怖を感じた。

「ロキ、ムニン……よく聞け」

「な、なんだよ？」

ロキの声は震えていた。その顔も、俺と同じように青ざめている。

震える体に力を込めながら、俺は目を細めて告げた。

「あの黒い粒子はただの粒子じゃない。きっとあいつらは、魔力を喰らう粒子だ」

「ま、魔力を喰らう粒子？！　何だよそれ……！」

ロキは信じられないといった様子で叫んだ。

「俺たちの魔法は、この世界にいる精霊たちの力を借りて使うことができる。ロキがさっき使った魔法だって、火の精霊の力を借りて鳳凰を呼び出したんだ。でも、あいつらはその精霊の力を喰ってやがった。森が枯れ始めたのだって、きっとこの地に宿っている精霊たちをあいつらが喰っているからだ」

俺の言葉にムニンは目を見開いた。その瞳には、驚愕と、そして深い絶望の色が浮かんでいた。

「じゃあ……まさか真夜中の森も……」

ムニンの言葉に、俺は表情を歪めた。これは俺の考えでしかない。だが、あの真夜中の森には、本来いるはずの精霊たちの姿がなかったことに、俺は今気づいた。

兎人族と狼人族たちが争っているのだって、この黒い粒子が何か関係しているのかもしれない。一ヶ月前に姿を消したエーデルのことも、何か関係しているんじゃないか？

「アレス！ 来るぞ！」

「っ！」

ロキの呼びかけで我に返った時、目の前に浮いていた無数の黒い粒子は、俺たちに狙いを定めると、一斉に襲い掛かってきた。

「逃げろ！」

そう二人に叫んで、俺たちは踵を返して走り出した。

「いったい何なんだよ、あいつは！」

「いいから黙って走れっての！！」

俺は前を走る二人の背中を見つめながら、軽く後ろを振り返った。

黒い粒子は俺たちを追いかけることを諦めず、群れとなって向かってきている。このままでは森どころか、この島自体がこの黒い粒子によって黒く染められてしまう。何か止める手段はないのか？！

「アレス！」

「っ！」

ロキの声で前を向いた時、目の前にも黒い粒子がこちらに向かって来ていることに気がついて、俺たちは立ち止まった。