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「アレス!あそこを見ろ!」

ロキの叫び声に、俺たちは走る足を止めた。東の森の奥から、まるで巨大な黒い靄のように、不気味な粒子がこちらに向かって流れてくるのが見えた。

「あれは……何だ?」

「わからない。でも、これを見ろ!」

ムニンが足元の地面を指差した。黒い粒子が通過した後の地面は、草木がすべて枯れ、色が抜け落ちて、まるで炭のように真っ黒に変色していた。

その侵食は徐々に広がり、生き物の気配が一切感じられない、死の世界へと変わっていく。

「まさか、東の森が黒くなっている原因は、あれなのか?」

「ああ、どうやらあの黒い粒子みたいなのが、森を黒くしている元凶みたいだな」

ムニンが険しい顔で頷く。

「とにかく、あの粒子を止めるしかねぇ。これ以上、村に近づけさせるわけにはいかないからな」

ロキがそう言うと、両手に黒い手袋をつけ、右目を前にかざした。

「燃え盛る火の精霊、フェニックスよ、我に力を貸し与えたまえ! 燃え盛る業火の如く、目の前の黒い粒子を燃やし尽くせ! 鳳凰の咆哮(フェニックス・ルジート)!」

ロキの詠唱によって、全身を炎に包まれた巨大な鳳凰が姿を現した。鳳凰は大きく羽ばたくと、そのまま黒い粒子に向かって咆哮を放つ。

そして、黒い粒子たちはそのまま、激しい炎の中へと姿を消した。

「よしっ!」

ロキは勝利を確信し、安堵の表情を見せた。だが、そう見えたのも束の間だった。

炎の中に消えたはずの黒い粒子は、一箇所に集合すると、巨大な生物の姿へと形を変えた。それは、闇そのものが凝縮されたような、黒く大きな怪物だった。

「な、なんだ……あれは?」

黒い怪物は、炎の中で大口を開くと、そのまま鳳凰の咆哮を吸収してしまった。いや、飲み込んでしまったと言った方が適切かもしれない。

「あいつ! 俺の魔法を食べやがった?!」

ロキは信じられないといった顔で叫んだ。

「いったい何なんだ……あいつは!」

黒い怪物は再び元の小さな粒子に戻ると、今度は俺たちの姿を捉えた。そして、その粒子たちは口を開き、一斉に言葉を発した。