「お前は化け物だ！サファイア！」

「なぜお前だけ、そんな力を持って生まれてきたのだ！」

「あなたのせいで……！あなたなんて、生まれてこなければよかったのよ！」

……これは何？

頭の中に流れ込んでくるのは、サファイア自身の記憶だった。

幼いサファイアが、前髪の中から青紫色の瞳を細め、人々を睨みつけている。

彼らの目には、憎しみと恐怖、そして得体の知れないものを見るかのような嫌悪感が宿っていた。彼女に向けられる冷たい視線と、耳を塞ぎたくなるような罵声。それは、ただの言葉ではなく、鋭いナイフのように彼女の心を突き刺していた。

「こんな力……好きで授かったんじゃない……！」

孤独な叫びが、私の心に深く突き刺さる。

彼女は、望んでこの力を手に入れたわけではなかった。にもかかわらず、その存在ゆえに、誰からも拒絶され、疎外されてきた。私は、彼女の痛みを感じ、胸が締めつけられるようだった。

場面は瞬時に変わった。

サファイアの前に、白銀の髪を持つ少女と、ブルームーン色の髪を持つ青年が立っていた。少女は優しい表情でサファイアを見つめる。その目は、彼女を『化け物』とは見ていない。

まるで、長年探し求めていた宝物を見つけたかのように、温かく、そして慈しむような光を宿していた。

「私と一緒に行きましょう。あなたのその力は、私にとって必要なのです」

「……っ」

その言葉を聞いたサファイアの頬に、一筋の涙が伝った。その言葉は、まるで彼女の孤独を救う光のように見えた。

その光景に目を丸くした時、また別の場面へと記憶が飛んだ。

「なあ、サファ。オイラはお前に星空というものを見せてやりたいっす」

満面の笑みを浮かべた青年が、サファイアに語りかける。

彼の髪は金髪で、毛先だけが青紫色に染まっている。左の瞳は金色、右の瞳は青紫色という、不思議な色をしていた。彼の言葉には、偽りのない純粋な輝きがあった。その無邪気な瞳が、サファイアの凍てついた心に、まるで春の光のように差し込んでくる。

「ああ……。機会があったらな」

「ねえ、サファイア。わたくしのこと、お姉様と呼んでくれても良いのですよ？」

金髪を持つ女性が、優雅に微笑みながらサファイアに手を差し伸べる。その柔らかな声は、これまでの罵声とは全く違う、温かい響きを持っていた。彼女はサファイアの力を恐れることなく、その存在を心から受け入れようとしていた。

「いや……遠慮しておく」

サファイアは困惑したように目を伏せた。長年、心を閉ざしてきた彼女にとって、このような温かい言葉は、どう受け止めていいのか分からなかったのだろう。

「おい男女野郎、今すぐ表に出ろ！」

怒鳴り声と共に、紅色の髪を持つ男が、今にも飛びかかってきそうな勢いで立ちはだかる。彼の顔には、サファイアに対する苛立ちがはっきりと見て取れた。しかし、その瞳には憎しみはなく、どこか心配しているような色が混じっていた。

「はあ……そんなに私と喧嘩をしたいのか、お前は？」

サファイアは、呆れたようにため息をついた。

「サファイア。この服なんてとてもお似合いだと思うのですが」

女性は、華やかなドレスを差し出し、サファイアに微笑みかける。そのドレスは、彼女の透き通るような肌によく映えそうだった。

「いや、良いってば！　そんな女っぽい服は好きじゃない！」

サファイアは顔を真っ赤にして、ぷいっと横を向いた。その姿は、まるで年頃の少女のようだ。

次々と断片的な記憶が頭の中を駆け巡る。そこには、彼女を大切に思い、共に笑い、喧嘩する人々の姿があった。

その中に、私は先生の姿を見つけた。先生が、真剣な眼差しでサファイアに向き合っている。

「お前の力を貸してほしい」

「……わかった。でもそれは、この戦いが終わるまでだ」

そう言って、サファイアは先生の手を握った。

「彼女が……好きだと言ったこの世界を、終わらせるわけにはいかないんだ！　俺は……彼女と再び出会うと約束した！　そのためにも、お前の好きにはさせない！」

先生の叫び声が、私の頭の中で響き渡った。

彼は、誰を思い誰のために戦っていたのだろうか。

その答えは、まだ見つからない。

しかし、私にはわかる。