私を優しく見つめていた彼女の表情が、一瞬で変わった。視線は鋭く、東の森に向けられている。
「カレン。悪いが、喜んでいる暇はない」
その言葉で、私の脳裏に東の森で起こっている異常な事態が蘇った。
「そうだ……東の森の方が急に黒くなり始めています!」
「ああ、知っている。これは早急に対処すべき問題だ」
彼女は遠くの遺跡に目を向け、小さくため息をつく。その姿に首を傾げていると、彼女は再び私に視線を戻した。
「あいつが言っていた闇の魔力の原因はあれか……カレン。お前は『黒い粒子』について、あいつから話を聞いたことはあるか?」
「黒い……粒子。ええ、先生から少しだけ。私たちが普段吸っているマナが、更に猛毒になった状態だと。雫を宿していても、完全に毒を浄化できず、持ち主を怪物へと変えてしまうと聞きました」
「その通りだ。ただ、それだけじゃない」
サファイアの表情がさらに険しくなる。
「この黒い粒子は、この世界を構成するマナそのものを侵食し、死滅させる。一度吸い込めば、体の中の魔力回路が破壊され、二度と魔法が使えなくなるんだ」
「そんな……!」
「そして、最も厄介なのは、この粒子が時空の歪みから流れ込んでいることだ。おそらく、あの世界のどこかで、こちらへと繋がる時空の割れ目ができた。だが、なぜ突然……。あの世界へ繋がる道は、完全に閉じられているはずなのに」
「サファイア……」
先生は、あの世界から闇の魔力がこちらに流れてこないよう、トトが止めていると言っていた。その力が流れ込んできているということは、トトの身に何かあったのだろうか?
「カレン。くれぐれも、あの黒い粒子を吸うな。お前の身に魔剣の力が働いているとしても、私ではあの力を完全に浄化することはできない」
「じゃあ……このまま見ていることしかできないのですか?!」
東の森には、ロキたちが向かっている。彼らに危険を伝える時間さえ、もう限られている。こんな時、先生がいてくれたら……。
「一時的だが、あの黒い粒子を止める手段がある」
「えっ?!」
「氷結封絶の魔法だ」
氷結封絶? 初めて聞く名前の魔法だった。
「時間がない。説明しながらやるから、ついてこい」
「はい!」
サファイアは魔剣の姿に戻ると、私の右手の中に戻った。
『今から、お前に私の魔力をまとわせる。その後、氷結の力を一気に開放する。いいか、躊躇するな』
「分かりました!」
サファイアの刀身が青白い輝きを放ち、その光が私の目の前で集まると、すうっと私の体の中に入ってきた。同時に、頭の中に数々の記憶と知識が流れ込んでくるのを感じた。
それは、まるで凍りついた知識の奔流だった。氷結封絶は、あらゆるものを凍結させることで、空間そのものを封じ込める魔法だ。空気中に漂う毒の粒子も、時空の歪みから流れ出る闇の力も、すべてを氷漬けにして、一時的にその力を無効化する。
知識が定着したと思ったその時、今度は全く別の、個人的な映像が頭の中に流れ込んできた。
それは、何千年も昔の、サファイア自身の記憶だ。
「カレン。悪いが、喜んでいる暇はない」
その言葉で、私の脳裏に東の森で起こっている異常な事態が蘇った。
「そうだ……東の森の方が急に黒くなり始めています!」
「ああ、知っている。これは早急に対処すべき問題だ」
彼女は遠くの遺跡に目を向け、小さくため息をつく。その姿に首を傾げていると、彼女は再び私に視線を戻した。
「あいつが言っていた闇の魔力の原因はあれか……カレン。お前は『黒い粒子』について、あいつから話を聞いたことはあるか?」
「黒い……粒子。ええ、先生から少しだけ。私たちが普段吸っているマナが、更に猛毒になった状態だと。雫を宿していても、完全に毒を浄化できず、持ち主を怪物へと変えてしまうと聞きました」
「その通りだ。ただ、それだけじゃない」
サファイアの表情がさらに険しくなる。
「この黒い粒子は、この世界を構成するマナそのものを侵食し、死滅させる。一度吸い込めば、体の中の魔力回路が破壊され、二度と魔法が使えなくなるんだ」
「そんな……!」
「そして、最も厄介なのは、この粒子が時空の歪みから流れ込んでいることだ。おそらく、あの世界のどこかで、こちらへと繋がる時空の割れ目ができた。だが、なぜ突然……。あの世界へ繋がる道は、完全に閉じられているはずなのに」
「サファイア……」
先生は、あの世界から闇の魔力がこちらに流れてこないよう、トトが止めていると言っていた。その力が流れ込んできているということは、トトの身に何かあったのだろうか?
「カレン。くれぐれも、あの黒い粒子を吸うな。お前の身に魔剣の力が働いているとしても、私ではあの力を完全に浄化することはできない」
「じゃあ……このまま見ていることしかできないのですか?!」
東の森には、ロキたちが向かっている。彼らに危険を伝える時間さえ、もう限られている。こんな時、先生がいてくれたら……。
「一時的だが、あの黒い粒子を止める手段がある」
「えっ?!」
「氷結封絶の魔法だ」
氷結封絶? 初めて聞く名前の魔法だった。
「時間がない。説明しながらやるから、ついてこい」
「はい!」
サファイアは魔剣の姿に戻ると、私の右手の中に戻った。
『今から、お前に私の魔力をまとわせる。その後、氷結の力を一気に開放する。いいか、躊躇するな』
「分かりました!」
サファイアの刀身が青白い輝きを放ち、その光が私の目の前で集まると、すうっと私の体の中に入ってきた。同時に、頭の中に数々の記憶と知識が流れ込んでくるのを感じた。
それは、まるで凍りついた知識の奔流だった。氷結封絶は、あらゆるものを凍結させることで、空間そのものを封じ込める魔法だ。空気中に漂う毒の粒子も、時空の歪みから流れ出る闇の力も、すべてを氷漬けにして、一時的にその力を無効化する。
知識が定着したと思ったその時、今度は全く別の、個人的な映像が頭の中に流れ込んできた。
それは、何千年も昔の、サファイア自身の記憶だ。


