​「うがあああうううう!!」

​突然、右の森から理性を失った竜人族が飛び出してきた。唸り声を上げ、鋭く尖った爪が、まっすぐ私を狙って振り下ろされる。

​「――っ!」

​殺される――

そう悟って、私は思わず目を固く閉じた。その刹那、足元に突き刺さったままの魔剣サファイアが、まばゆい青白い光を放った。

次の瞬間、私に襲いかかった竜人族は、一瞬にして氷の中に閉じ込められてしまった。

​「……っ?」

​もしかして、サファイアが私を守ってくれたのだろうか? そんな考えが頭をよぎり、私は恐る恐る魔剣サファイアに視線を落とした。その時だった。

​『危なかったな、カレン』

​「っ!」

​頭の中に、どこか懐かしく、そして心地よい女性の声が直接響いた。まさかと思い、私は震える唇を開いた。

「もしかして……サファイア、なのですか?」

​『ああ、そうだ』

​彼女の声が頭の中に流れた瞬間、私の目から涙がこぼれ落ち、頬を伝った。

体から力が抜け、その場に座り込もうとした私を、誰かがそっと支えてくれた。その拍子に、風になびく青い髪が視界に入った。

​「まだ体調が悪いんじゃないのか? 少し顔色が悪いようだ」

​後ろを振り返ると、そこには人間の姿をしたサファイアが立っていた。

初めて見る彼女の姿は、私が想像していたよりもずっと凛々しく、美しいものだった。

真っ青だと思っていた髪は、よく見ると毛先が水色のグラデーションになっており、額には青紫色のバンダナが巻かれている。

温かそうな服装をまとい、腰にはターコイズブルーの結晶が吊るされていた。

それは左耳についたピアスにも付いており、青白い輝きを放っている。

​「本当に……サファイアなのですか?」

​私は信じられない気持ちで、再び問いかけた。

サファイアは優しく微笑むと、私の手を握り、そっと自身の頬に当てた。

「ああ、私だ。お前のそばに、ずっと居た」

​その温かさと確かな存在感に、私の堰を切ったように涙があふれた。彼女の存在を確かめるように、きつく抱きついた。

​「ようやく……ようやく、あなたに会えました! やっと、あなたの声を聞くことができました!」

​サファイアは、慣れた手つきで私の背中を優しくさすってくれた。

​「すまなかった、カレン。すぐに姿を見せてやれなくて……。でも、お前の声はちゃんと、私には届いていた」

​「私の声が……?」

​「お前があいつのために頑張っていること、私に認められようと必死に努力していたこと。すべて……聞こえていた」

​私は一人ではなかった。

ずっと、私の声は彼女に届いていた。

それが何よりも嬉しくて、再び涙が頬を伝った。