「原因は、私にも分かりかねます……」

​ザハラは悔しそうに唇を噛み、拳に力を込めた。そのピンク色の瞳は悲しみと自責の念に揺れていた。

「エーデルより民を預かっているのに……この私が皆を守らねばならないというのに、このようなことになってしまうとは……!」

​ザハラの嘆きに、俺はかける言葉を見つけられずにいた。

「ザハラ……」

​彼は翼を大きく広げ、背中の剣を抜き放った。その表情には、深い悲しみと同時に、揺るぎない覚悟が満ちている。

「私は今から、生き残っておられる方々に、エーデル様の遺跡へ移動するよう呼びかけます。あそこなら、まだ光の加護が残っておりますから、しばらくの間はきっと大丈夫なはずです」

​「でしたら、私も行きます」

​ザハラの言葉に続いて、カレンが静かに口を開いた。その声には、一切の感情の揺れが感じられない。

​「カレン?」

​彼女は鞘からサファイアを抜くと、俺たちに背を向けた。

その刀身に入った痛々しいひびが鈍く光る。魔剣サファイアの魔力がいつもより弱まっているのが、一目見ただけで分かった。

​「カレン……大丈夫なのか?」

​俺の心配に、カレンは振り返らずに軽く頷いた。

「心配してくれて、ありがとう。ですが、問題ありません」

​その背中からは、言葉以上の強い意思が伝わってきた。

​「アレス。ここはカレンとザハラに任せよう。原因を突き止めないことには、何も始まらない」

ロキが俺の肩に手を置いた。

「東の森だ。行こうぜ」

​「……ああ、わかった」

​俺は最後に、決意を固めたカレンとザハラの背中を見つめ、力強く頷いた。俺たち三人は、東の森へ向かって走り出した。


☆ ☆ ☆


​東の森へと駆けていくアレスたちの背中を見送ると、私はこちらへ向かってくる竜人族たちを瞳に映した。

彼らの瞳は濁り、理性を失っている。その姿は、まるで別の生き物のように見えた。

​私は深く息を吸い、心の奥底で自分に言い聞かせた。

​「決して、命を奪うことはしません。ただ、動きを止めるのみ……」

​魔剣サファイアに魔力を注ぎ込んだ。

ひび割れた刀身が淡く光り、僅かに震える。

それでも、私の魔力を受け止めてくれた。私はそれを地面に突き刺す。

​「我が魔剣、サファイアの内に秘められし力よ、その力をもって地平を凍らせたまえ! 絶対零度(ゼロアブソルート)!」

​サファイアから強烈な冷気が発せられ、地面は瞬く間に凍りついた。

目の前に迫っていた竜人族たちは、次々と動きを止め、氷の彫像へと変わっていく。

​「ザハラ様! どうぞお急ぎください!」

​私の言葉に、ザハラは力強く頷き、翼をはためかせて村の奥へと飛んでいく。

彼の姿が見えなくなるのを確認し、私も村の中心へ向かって走り出そうとした、その時だった。

​地面に突き刺したサファイアのひびが、一際強く光り、耳障りな音を立てた。それはまるで私自身に何かを訴えかけているような。