​「ヨルンさんがこう言っていました。ここから東にある森が、まるで炭のように黒くなっていると」

​ロキの言葉に、俺は思わず息をのんだ。

「黒くなっている?!」

​「それだけじゃないんだ!」

ロキはさらに声を荒げた。

「突然、村の人たちが暴れだして、仲間を襲っている」

​東の森が黒い?

村の竜人族が仲間を襲っている?! 一体、何が起こっているんだ……!?

俺の頭の中は、にわかに起こった状況の変化を理解できずに混乱していた。

隣に立つカレンも、普段の冷静さを失い、表情を凍りつかせていた。

​「ロキ。ムニンはどこに行ったのかしら?」

​俺たちの動揺をよそに、テトは静かにロキに問いかけた。その声には、驚きよりも深い何かを探るような響きがあった。

​「あいつなら、ザハラと一緒に村の様子を見に行っている。もうすぐ帰ってくるはずだけど」

​「そう……」

​テトはそれ以上何も言わなかったが、その眼差しは遠くを見据えているようだった。

テトの様子を横目でうかがいながらも、俺はすぐにロキとカレンに目を戻した。

​「ここでじっとしているわけにはいかない。とりあえず俺たちも行こう。何が起こっているか、この目で確かめないと」

​「ああ、そうだな。俺もそれが一番いいと思う」

​ロキが力強く頷き、カレンも無言で同意を示す。二人は先に部屋を出ていった。

俺はテトに向き直り、ソフィアをそっと引き寄せた。

​「テト、ソフィアのこと、頼めるか?」

​テトは静かに頷き、俺の目を見つめる。

「ええ。でも、気をつけて。何か、嫌な予感がするわ」

​「わかった。必ず戻る」

​俺はテトの言葉に頷き、二人の後を追って部屋を出た。

誰もいなくなった部屋で、テトは一人、静かに呟く。

​「黒い粒子が……とうとう来たのね」

​その言葉は、まるで世界の終わりを告げるかのようだった。

​「アレス!」

​村へと急ぐ俺たちの耳に、焦ったムニンの声が飛び込んできた。

少し先に、ザハラと並んでこちらへ戻ってくるムニンが見える。

彼らの顔は、かつてないほど険しく、何か恐ろしいものを見てきたかのように強張っていた。

​俺はすぐに彼らに駆け寄った。

「村の様子はどうだった? 一体何が……」

​「……最悪です」

ザハラが低い声で言った。その声は、絶望に満ちていた。

「我を失った竜人族たちが、仲間同士で殺し合っております。まるで別の生き物に変わってしまったかのように」

​「そんな……!」

​俺は言葉を失い、遠くに見える村を凝視した。

煙が立ち上り、助けを求める叫び声が、風に乗って微かに聞こえてくる。

俺の胸に、底知れない不安が込み上げてきた。

一体、何が起こっているんだ?