​「焦りすぎ」

​テトは黄金の瞳を細め、静かにそう告げた。

その声は、熱くなりすぎた俺の頭に水をかけるようだった。

無意識に握りしめていた拳を、ゆっくりと解く。

​「焦ったところで何も始まらない。何も見えないわ。ただ、自分の心が追い込まれていくだけよ」

​テトの言葉が心にすとんと落ちてきた。

ソフィアが危険に晒されてから、俺はずっと焦っていた。もっと強くならなければ、と。その一心で、周りがまるで霞んで見えていた。

テトは、そんな俺の心の奥を見透かしたかのように、静かに諭す。

​「で、でも!」

​俺の反論を遮るように、テトは「周りを見なさい」と続けた。その言葉に、俺ははっとした。

​「あなたの周りに誰が居るのかしら? それとも、あなたは一人だと思っているのかしら?」

​「それは……」

​テトの問いかけが胸に刺さり、俺は一度深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。

震えそうになる心を落ち着かせ、隣に立つソフィアを見つめる。

彼女は、俺の不安に気づき、そっと手を握ってくれた。その温かさが、俺の心にじんわりと広がる。

​「俺には……ソフィアが居る。カレンやロキ、ムニンだって居てくれる」

​そうだ、俺は一人じゃない。

みんながそばに居てくれる。彼らから見れば、俺はどんなに頼りなく見えていただろうか。それでも、彼らはこの場にいてくれた。

俺の力になろうとしてくれた。

​「あなたは一人じゃない。あなたの力になってくれる仲間が居る。だから、焦る必要なんてないのよ」

​「……テト」

​俺はただ、彼女の名前を呼ぶことしかできなかった。テトはいつでも周りをよく見ている。

そして、的確な助言をくれる。

彼女の言葉は、いつも俺の心を救ってくれた。もしかしたらソフィアのことを思ってのことかもしれないが、今、俺は確かに救われた。

テトの言葉のおかげで、一番大切なことを思い出し、落ち着くことができた。

​「時間はたっぷりあるわ。その中で、あなたは必ずもっと強くなっていけるはずよ」

​「ああ、頑張るよ。必ずソフィアを守れるくらい強くなって見せる」

​そう決心し、まっすぐテトを見つめ返した、その時だった。

​「おい! アレスは居るか?!」

​部屋の扉が勢いよく開き、ロキが飛び込んできた。その顔には焦りが滲み、息も乱れている。

その後ろには、いつも冷静なカレンも、珍しく険しい表情で立っていた。

​「カレン! 目が覚めたのか」

​「ええ、毒も抜けて今は大丈夫です。しかし、今はそんなことを言っている場合ではありません」

​俺の問いに二人は頷き、ロキが窓の外を睨みつけた。外はもう、夕闇に包まれ始めていた。

​「さっき村に行っていたヨルンが、慌てて帰ってきたんだ」

​「ヨルンが?」

​ザハラに頼まれた物があると言って、村まで買い物に行ったはずだ。

しかし、いったい何があったというのだろう。

窓から見える村の方向から、不穏な風が吹いてきたような気がした。