「残念ながら、私でも光の巫女様と魔人王様のことについては存じ上げません。ただ、エーデルがそのようにおっしゃっていたものですから」

​「エーデルが……」

​俺の脳裏に、あの青髪の女の言葉が蘇る。

「本気でそう信じているなら、まずは知ることから始めろ。お前のその信念は、ソフィアの過去を知った時、本物になる」

​だから俺は、エーデルを見つけなければならない。魔人族について知るために。必ず見つけ出して、話を聞くんだ。

​「あらあら、とても怖い顔をしているのね」

​ふいにかけられた声に「は?」と反応すると、右肩に乗っていたテトが、柔らかい肉球を俺の頬に押し当ててきた。

​目を瞬かせている間に、テトは肉球を離す。

​「そんな眉間にシワ寄せていたら、跡になっちゃって、今後取れなくなるわよ」

​「そ、そんなことないだろ? 眉間にシワなんて……」

​「いいえ、寄せていたわよ」

​テトはそう言い放つと、ひらりとベッドの上に下りた。俺の目の前にちょこんと座り、ふわりと尻尾を左右に振る。

​「あなたが悩んでいることは予想がつくけど、悩んだって仕方のないことよ」

​その言葉に、俺は思わず目を見開いた。

そして、苦笑して顔を伏せる。

テトの言う通りだ。

​「今はソフィアの回復を待って、それからゆっくりとエーデル様の行方を探せばいいのよ?」

​「ゆっくりって……そんな時間、どこにもないんだ」

​この島にいられる時間には、限りがある。

ソフィアの回復まではここに留まるつもりだが、この島にエーデルはもういない。

​一ヶ月前に姿を消したエーデルは、この島に何の痕跡も残していなかった。しかし、本土には何か手がかりがあるかもしれない。

​それを失う前に、早くここを離れないと。焦燥感が、俺の心を突き動かしていた。