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前に一度だけ、カレンが泣いているのを見たことがあった。

​それは、土砂降りの雨の日だった。最近カレンに避けられていた俺は、どう声をかけたらいいのか分からず、ずっと悩んでいた。

そんな中、母さんに買い物を頼まれ、人通りのない広場を通った時、一人ぽつんと佇むカレンの姿が目に入った。

​「カレン?」

​こんな雨の中、どうしてここにいるんだ?

声をかけようとした瞬間、彼女の手の中にサファイアがあることに気づき、俺は足を止めた。

するとカレンは、体から力が抜けたように、その場に座り込んだ。そして、体を震わせながら泣いていた。

​「ごめんなさい……私のせいで……お兄様、ごめんなさい!」

​雨の中、びしょ濡れになって泣いているカレンの姿に、俺は目を見開いた。

​最初は、なぜ泣いているのか理解できなかった。でも、それから遠くからカレンの様子を観察するようになって、カレンが自分の存在について深く悩んでいることに気づいた。

俺と距離を置いたのも、俺が目標としている『すごいカレン』にはなれないと思ったからなんだ。

​「こんなんじゃだ……駄目なのよ! これじゃ、サファイアに認められない!」

​必死にサファイアに認められようと努力する彼女を見て、俺は力になりたいと思った。そばで支えたいと思った。

​カレンが魔剣に認められてから、俺の修行はそれまでとは全く違うものになった。

以前はただ魔法が強くなりたい、という漠然とした思いだったが、今は明確な目的ができた。

『カレンを守れる力』を手に入れるため、炎魔法の修行に打ち込んだ。

​師匠は言った。「ロキ、お前は天性の才能を持っている。だが、その力はただの破壊力にすぎない。それでは人を守ることはできない」と。

​俺は毎晩、人気のない森で炎魔法を練習した。

最初は思うように炎を操れず、ただ爆発させることしかできなかった。

俺の炎魔法は強力な反面、制御が難しく、少しでも油断すると暴走する危険があった。

だから、俺は魔法を使う時、黒い手袋を両手にはめるようになった。

これは魔法を安定させ、より精密に操るためのものだ。

​「カレンを守るんだ……」

​その一心で、炎の制御をひたすら練習した。

炎を一本の細い線にしたり、蝶の形にしたり、自由に形を変えられるようになるまで、何千、何万回と魔法を唱えた。

炎が俺の体の一部になったかのように、思い通りに操れるようになった時、師匠は初めて俺を褒めてくれた。

​そして、魔法協会の試験に挑み、『業火の魔道士』の称号を手に入れた。

​これは、カレンに肩を並べるためじゃない。

彼女を守るため、もう二度と涙を流させないために、俺はお前を追いかけたんだから。