ヴェルト・マギーア ソフィアと竜の島

「よう、カレン。ようやく、だな」

​ロキは昔と変わらない笑顔で、私にそう声をかけてきた。

​「……ようやくって、何のこと?」

​言葉の意味が分からず問い返すと、ロキはきょとんとしてから、気まずそうに頬をかいた。

​「いや……言っただろ? 俺もすごい奴になるって」

​「……えっ」

​その言葉を聞いて、私の目に涙がにじんだ。まさかあの時の約束を、ロキはずっと覚えていてくれたの?

​「言っただろ? 俺もすごい奴になって、お前の隣に立ちたいって。だから、必死に魔法を勉強して、魔力を高めまくって……そのおかげで今じゃ、炎魔法なんて完璧に使いこなせるぜ」

​「……そうなの?」

​「ああ。全部、お前と一緒にこの場所に立つために頑張ったことだからな」

​ロキは、私が彼を避けるようになってからも、ずっと私と同じ場所に立つために努力し、私を追いかけてきてくれた。

その事実が嬉しくて、私は泣きそうになり慌てて彼から目をそらした。

​「お? なんだよ、そんなに嬉しかったのか?」

​「……別に、嬉しくなんか……」

​私たちは、それぞれの名前が呼ばれるのを待った。​最初に呼ばれたのはロキだった。

最高司祭ミカエル様が、ロキに金色のバッジを渡す。そのバッジには燃え盛る炎の紋様が刻まれていた。

​「ロキ君。君の炎魔法は、その破壊力と精度の高さから「業火の魔道士」の称号にふさわしい。この称号を、君の今後の活躍の証として授与しよう」

​会場が拍手で包まれる中、ロキは堂々とした足取りで壇上を降りてきた。

​次に、私の名前が呼ばれる。

​「カレン君。君の魔剣サファイアと、類まれなる氷魔法の制御能力は、誰もが認めるものだ。よって「氷結の魔道士」の称号を授与する」

​最高司祭様から受け取ったバッジは、氷の結晶が輝く銀色だった。私は震える手でバッジを握りしめ、壇上からロキの姿を探した。

ロキは私の姿をまっすぐに見つめ、満足そうに微笑んでいた。​その日、私たちはそれぞれの称号を手に再び同じ場所に立った。

しかしこの称号と立場が、さらに私自身を追い詰めることになるなんて、この時の私は知るよしもなかった。


☆ ☆ ☆


椅子に上着が掛けてあるのが見えて手を伸ばしたその時、ロキがその手を掴み私の体をぐっと自分のほうへ引き寄せた。

​「きゃっ!」

​予想外の力に驚き、私はおそるおそる彼の顔を見上げた。

​「そうやって、また全部一人で背負い込むのかよ!」

​図星を突かれ、私の心臓は大きく跳ねた。

​「お前はいつもそうだ! 誰にも頼ろうとしないで、一人で何もかも背負い込んで、悩んで、苦しんで、一人で泣いている!」

​「……ロキ?」

​ロキは私の体を強く抱きしめた。気づけば彼の腕の中にいて私は目を見開く。

彼の心臓の音が聞こえ、温もりを感じて私の頬が熱くなる。

​「そんなに一人で背負い込むなよ……。それじゃ、俺が今まで頑張ってきた意味がなくなるじゃないか」

​「えっ……だって、それは私みたいにすごい人になるためなんじゃ?」

​「……そんなわけねぇだろ!」

​ロキは私を抱きしめる腕に力を込め言葉を続けた。

​「俺が何のために今まで頑張ってきたと思っているんだ! 俺はずっと、お前の力になりたくて頑張ってきたんだ! お前が俺を避けていた時期も、俺はずっとお前を見ていた」

​「……ずっと?」

​まさか、ロキは私をずっと見ていてくれたの? でもどうして?

私はもう、あなたの目標にはなれない。あなたと同じ場所に立つことなんてできないのに。