ロキは私から少し離れると、決意に満ちた表情で人差し指を突きつけてきた。

​「よし、決めた!」

​その仕草はまるで宣誓のようで、私の心臓が小さく跳ねる。

​「今日からお前は俺にとっての目標だ!」

​「……目標?」

​彼の言葉が理解できず、私は問い返した。目標って、いったいどういう意味だろう?

​ロキは私の困惑を察したのか、少し照れたように頬をかきながら続けた。

​「目標って言うのは、俺もお前みたいにすごい奴になるって意味だ!」

​「……それって、つまり私みたいになりたいってことなの?」

​「ああ。お前は将来、きっととんでもなくすごい奴になる。俺は、いつかお前の隣に肩を並べて立ちたいんだ」

​ロキの言葉が、私の頭の中を温かく巡っていく。彼にとって私は、そんなにも大きな存在だったんだ。

その事実に胸がいっぱいになり、私は自然と微笑みを浮かべた。

​「じゃあ、どっちが先にすごい人になれるか、競争しましょうか」

​私の提案に、ロキは目を輝かせた。

​「おっ! いいなそれ!」

​その日から、私たちは本当によく話すようになった。一緒に勉強したり、休日には街へ出かけたり、時には些細なことで喧嘩をして、お互いの気持ちをぶつけ合ったりもした。

​ロキは私にとって、かけがえのない大切な友人になっていった。この関係がずっとずっと続けばいいと、心から願っていた。

​でも……その思いは、届くことはなかった。

​私が魔剣サファイアに認められた日。家族や親戚の態度は、それまでの冷淡さが嘘のように一変した。

それまでの私は、家にいてもいなくても、どちらでもいい存在だった。ただ()だからと言う理由で、家に居させてもらっていたにすぎない。

私の家系は絶対に身内婚以外を許さない。だから私は、将来私たちの血を次ぐ後継を産む存在(・・・・・・・・・・・・・)として扱われていたんだ。

兄のサルワは「お前は我が家の誇りだ」「自慢の息子だ」と両親に褒められていたのに、私は一度だって褒められたことなんてなかった。

​それでも、兄だけは私をちゃんと見てくれていた。

​「カレン。お前は俺にとって大切な妹だ。それはこの先もずっと変わらない」

​人のためになる研究がしたいと、いつも口にしていた兄のことが、私は大好きだった。

だから、魔剣サファイアの力で何かお手伝いができないかと考えていた。

​そんな矢先、両親は突然、兄を悪く言うようになった。

​「妹のカレンはサファイアに認められたと言うのに、兄のサルワはまだ研究なんてしているのよ」

​「人のために研究をしたって、そんなもの何のメリットにもならないじゃないか」

​最初、兄は特に気に留めていなかった。

しかし、家族全員から自身の研究を否定され続けた兄は、ある日荷物をまとめて家を出て行ってしまった。

​「ま、待ってください! お兄様!」

​私は必死になって兄の後を追いかける。すると、兄は最後に冷たい眼差しで振り返った。

​「カレン。お前みたいな奴のどこが、いったいすごいと言うんだろうな」

​その言葉が、私の胸に深く、深く突き刺さった。