「ラブレターじゃないみたいだぞ。その手紙から微かだけど魔力の残り香があったし、どうやら魔法を使って遠くからお前宛に送られてきたみたいだ」

「遠くから?」

ムニンの言葉に俺は軽く首を傾げた。魔法を使って遠くから俺宛に手紙を送って来たってことは、きっと重要な内容なんだろう。

とりあえず手紙の封を切って、中から手紙を取り出した。

そして案の定、その手紙は。

「やっぱり、依頼の手紙だな」

可愛い花柄の便箋には、依頼の内容が綺麗な字で書かれていた。

もしかして依頼主は女性だろうか?

「突然のお手紙をお許しください。実はあなた様に探してほしい相手がいます」

手紙の内容を読み上げると、ムニンが頭の上に乗って来た。

「なんだ、ただの人探しかよ。遠くから魔法を使って送って来たくらいだがら、もっと凄い依頼かと思ったのにな」

確かに、遠くからわざわざ魔法を使って送られて来た手紙だしな。ムニンがそう思う気持ちは分からなくもない。

しかし俺にはこうも考えられた。もしかしたらこの『探してほしい相手』は、表で名前を出すことが出来ない人物なのかもしれないと。

でなければ、普通は郵便局を通して手紙を送ってくるはずだからだ。

「依頼の内容を詳しくお話しますので、七日後に六月の岬(イウニオスケープ)にてお待ちください」

最後の文面を代わりに読み上げたテトは、肩から飛び下りるとソフィアがよく使っている机の上に飛び乗った。

「六月の岬って言えば、真夜中の森(ミッタ―ナハトヴァルト)の先にある岬だったかしらね」

「そうだけど、確かあそこは東西南北で三種族の縄張りがある場所だ。許可もなしに簡単にあの森を抜けるのは難しいぞ」

真夜中の森を抜けた先には、『カンナ』と言う名の街がある。

前に知り合いの商人から、『カンナに行くためには、必ず真夜中の森を通らなければならない』と聞いた事がある。

現状、カンナへ行く手段が真夜中の森を抜ける以外ないんだ。

でも今から何十年も前に、狼人族と兎人族の間でいざこざがあったらしい。

それがきかっけなのか、真夜中の森からは精霊たちが姿を消して、森の中は不穏な空気が漂っているらしい。

カンナに商売をしにあそこを通る商人たちの中には、狼人族と兎人族に襲われたって言う人がいるし、今では腕が立つ人を数人付けた状態でなければ、生きてカンナに辿り着くことが出来ないとまで言われている。

テトはきょろきょろとあちこちに目を配ると、地図を見つけたのかそれを加えると俺たちのところへ戻って来た。テトから地図を受け取った俺は、机の上に地図を広げた。

「私たちが住んでいる『イキシア』がここで、真夜中の森はここから離れたこの位置にあるから、ちょうど隣町三つ分ってところかしらね」

「てことは、遅くても二日目の夜にはここを出ないとだめだな。一つ手前の村で、真夜中の森についての情報も集めておきたいし」

俺の言葉にテトは小さく頷くと、真夜中の森の東西南北にそれぞれ目印代わりに肉球痕を付けた。