​魔剣サファイアの力を制御できていない事実を悟られることは、私にとって何よりも避けるべき事態だった。

そのために、私は周囲との間に厚い壁を作り、ただ一人、孤独に力を磨き続けてきた。

すべては、サファイアに、そして先生に認められるため、それだけが動機だった。

​「カレン。俺には必ず果たすべきことがある。これは俺が彼女から引き継いだ使命だ。その成就のためならば、俺は手段を選ばない」

​かつて先生が語った、あの固い決意の言葉を夢に見ながら、私は跳ねるように目を覚ました。

​「……っ」

​ゆっくりと瞼を開くと、見慣れない部屋の天井が視界に入った。徐々に焦点が合い、自分がどこかのベッドにいることを理解する。

​「ここは……」

​意識は、アレスたちと共に牢に入れられたところで途切れている。一体何が起きたのか。

​静かに上体を起こし、部屋を見渡す。人影はなく、気配もない。

​状況の把握より先に、私はサファイアを思い出した。

​「サファイアは……どこだ」

​焦りを感じながら再度部屋を探すと、ベッド脇の壁に、魔剣サファイアが立てかけられているのが見えた。

​「無事、か」

​ベッドから降り、サファイアの鞘に手をかける。抜き身にし、刀身を見下ろす。

​青い刀身には、あの時のヒビが依然として残っていた。

サファイアは、そのヒビを修復しようと、自身の魔力を消耗しながら微かな青白い光を送り続けている。

​その光景が、私の表情を硬くした。

​「やはり……私の声は届かないのですね。サファイア」

​私の問いかけに、剣は沈黙を返す。

まだ、私を主として承認してはいないということだ。意識を失う直前の、あの切実な願いも、結局は空振りに終わった。

​「……先生。申し訳ありません」

​そう小さく呟いた瞬間、抑えきれない涙が一滴、頬を滑り落ちた。

​私はサファイアの刀身を、無意識に強く握りしめた。

掌が切れ、滲んだ血が手首を伝い、床へと冷たく滴る。

​「この未熟な私では……先生との約束を果たすことはできません」

​自責の念からサファイアを落としかけた、その時――私の手を、横から伸びてきた力強い手が支えた。

​「っ!」

​その手の温もりに驚き、顔を左へ向ける。

​部屋に差し込む光を受けて輝く金色の髪。真っ直ぐで鋭い青い瞳。

​その立ち姿が、一瞬、私の知る旅人の姿に重なりかけ、「先生」という言葉が喉まで出かかった。

​しかし、そこに立っていたのは先生ではなく……ロキだった。

​ロキは、私の手から流れる血を見て、痛ましげな表情を浮かべた。

その顔を目にした私は、咄嗟に視線を逸らし、頬の涙を拭い去った。