ヴェルト・マギーア ソフィアと竜の島

いや、違う。精霊たちは生まれたときからその土地に暮らしてきた。そんな簡単に、自分たちの故郷を捨てるような存在じゃない。

​それに、この森には森人族もいる。

​精霊と最も強い繋がりを持つ彼女たちは、その力を最大限に発揮できる唯一の存在だ。森人族がこの地を捨てていない以上、精霊たちがここを去った可能性はほぼゼロに近い。

​ならば、なぜ精霊たちは姿を消したんだ? 

​その時、俺の右目が嫌な魔力の反応を察知した。

それは、まるで熱い鉄を流し込まれたかのような激しい脈動だ。俺は咄嗟に右目を強く押さえつける。

​「……どうした?」

​驚いた様子のフォルが、鋭い視線を向けてくる。

​「……いや、何でもない」

​右目の痛みが少し落ち着くのを待ってから手を離し深く息を吐いた。

​こんなに強い魔力の反応は久しぶりだった。あの戦い以来、俺の右目がこれほど強く反応したことはない。

​……まさか。

​「なあ、フォル。その流行りだした病気っていうのは、いったいどんなものなんだ?」

​「それは……なんて言えばいいのか……」

​フォルは言葉を選びあぐねているようだ。言葉で説明するのが難しい病気だとでも言うのか?

​「その病気にかかった者は、狼人族だろうと兎人族だろうと、誰彼構わず襲いかかるんだ」

​「襲いかかる、だと?」

​種族関係なく、無差別に襲いかかるのか? それはまるで、誰かに操られているみたいじゃないか。

​「……なるほど」

​俺の中に一つの可能性が浮かび上がったが、断定するのは時期尚早だと考え頭を左右に振る。

​「お前たちが戦争を始めたのは、その病気のせいで狼人族が兎人族を、そして兎人族が狼人族の誰かを殺してしまったことがきっかけで、間違いないか?」

​「……ああ」

​フォルは辛そうに顔を歪めると、部屋に飾られた一枚の写真に目を向けた。

​俺もつられて視線を送ると、そこには優しい笑みを浮かべ大きなお腹を抱えたスカーレットの姿があった。

​そういえば、スカーレットの姿が見えない。どこかに行っているのか?

​「なあ、フォル。スカーレットはどうした?」