ヴェルト・マギーア ソフィアと竜の島

あの生意気なガキだった狼人族のフォルティスと、その横でいつもおどおどしていた兎人族のライガー。

二人の幼い姿が脳裏に浮かぶ。

​「……あの時は、色々と遊んでやったもんな」

​剣の稽古と称して、二人を森の中でさんざん走り回らせたこと。

俺が隠した宝を探させて、見つけるまで帰さないと脅かしたこと。

そうして疲れて眠りこけた二人を、村まで担いで帰ったこともあった。今思えば、本当にひどいことをしたものだ。

だがあの頃の二人の瞳は、どんなにつらくても俺を信頼しきらきらと輝いていた。

懐かしい記憶に笑みを浮かべ、紅茶を一口すする。

​「しかし……気になるな」

​近々ラスールに行く用事もあったし、ついでに様子を見に行くか。

​俺はそう呟くと、机に立てかけてあった二本の剣を腰に差し、店を出て真夜中の森へ向かって歩き出した。

​「それから二日間、森の様子を見させてもらったが、この森を豊かにしていたはずの精霊たちがいないことに気がついた」

​「……っ」

​フォルは相変わらず表情を歪め、俺から目をそらしている。

​どうやら、この戦争に精霊たちの存在が関わっているのは確かなようだ。

そう確信して、俺は目を細めた。

​しかし、なぜ突然精霊たちは姿を消したんだ?

戦争が始まったのが六十年前だ。精霊たちが姿を消したのは、その前ということになる。

​「確かに精霊たちが消えたことは、兎人族との戦争に関係している。だが、俺たちが本当に争っているのは別の理由だ」

​「別の理由?」

​「ああ」

​フォルは窓の外を見つめながら話し始めた。

​「六十年前、突然、俺たち狼人族と兎人族の間で、原因不明の病気が流行りだした」

​「……病気だと?」

​精霊たちが豊かにしているこの森で、原因不明の病気が流行ったというのか?

​「原因は今でも分からない。治す方法もない。だが、唯一分かっていることが一つだけある」

​その言葉に、俺はある仮説を思い浮かべた。フォルも俺の考えを察したように、小さく頷く。

​「原因不明の病気が流行りだしたのは、精霊たちが姿を消してから……か」

​精霊たちが消えた途端、その病気は流行り始めた。

​もしかして、精霊たちはこの病気が流行らないように抑えていたのか?

しかし自分たちの力ではもう抑えきれず、やむなくこの森を捨てて他の場所へ移ったとでもいうのか?