聞き覚えのある、キンキン声の若い女性客。
偽物のヴィトンで全身を包み、入口を蹴破りかねない勢いでドアベルを鳴らした。駆け込むように店内へ突入したせいで、時花も店長も驚かざるを得ない。
女性客は肩で息をして、髪の毛を振り乱し、膝に手を付いて、顔面を酸欠で青ざめさせていた。よほど急いで来たらしい。
「お、お金は調達したわ! バイト代を前借したり、親に土下座したり……ってそんなことはどうでもいいわ、早く売って! ロレックスのエクスプローラーを!」
女性客は偽物ヴィトンのポシェットから、茶封筒をさらけ出した。
ずっしりと重たそうな茶封筒は、相応に分厚い。
札束が入っているのだ。ロレックスの購入資金が。
(そっか……この子も学生なら、ローンなどは組みにくいですからね……買うなら現金で一括払いするのが最短です)
時花はポンと両手を叩いて納得した。
彼女はその金策に追われて、クリスマス直前まで購入を先延ばしにしていたのだ。
他店を見て回るなんて嘘っぱちだ。本当は金持ちでも何でもない。
「エクスプローラーですと、こちらに残っている分だけでございますが……」
「やりぃ! 残ってるのね! あ、プレゼント用にラッピングかけて包装してね?」