「風師さん、怪我の功名ですよ。あなたの掃除が遅れたことで青年客の目にとまり、このメールが書かれたのです。全ての事象は連鎖しています。おかげで真実を暴けました!」

「え? え?」

 店長は時花を見下ろすと、茶目っ気たっぷりに片目をつぶった。

 意中の彼に至近距離でウィンクされたら、時花はたちまち腰砕け必至だ。へなへなと力が抜け、ますます店長にしなだれかかった。

 寄りかかられた店長は、姿勢をやや崩しはしたものの、すぐに立て直した。足を踏ん張って、スーツにしわが付かないよう慎重に体を動かす。

 時花の肩を抱いてまっすぐ立たせ、こう告げる。

「女をとっかえひっかえするエリート大学生の正体。そして、そんな彼の正体を知らずにプレゼントを貢ぎたがる女性客の偽物ブランド。ちょっとしたナゾナゾですね。ささやかな『日常の謎』……あなたは解きほぐせましたか?」

「ぜ、全然さっぱり判りませんよぅ」

 ちんぷんかんぷんな時花だった。

 一体、どんな真実が隠されているというのか。

「女性客は再び当店へ下見に来るでしょう。何せ彼氏の行き付けの店ですからね。そのときこそ、全てを白日の下にさらします。悪い男に引っかかった彼女への忠告も兼ねて」