「ナンパ? ……ふむ」

 店長は手際よくマウスを動かすと、メール画面をざっと斜め読みした。

 即座に内容を把握したらしく、ほんの一瞬だが持ち前の笑顔を引きつらせる有様だ。常連客の意外な素顔を目撃して、残念そうな面相をかたどっていた。

 店長がわずかでも笑みを濁らせるなんて、時花はそっちの方が衝撃的だ。

「風師さん、このようなメールのやりとりは即刻おやめ下さい」

「あっはい、ていうか私は案内メールを送っただけなんですけどね……」

「余計な一言を添えたりしませんでしたか?」

「う。それは……店長が勧めたんですよ。お客様を気遣う一文があると喜ばれるって話してたじゃないですか」

「確かに話しましたけど、ここまで相手が迫って来るとは……このお客様が軽薄すぎるのでしょうか。風師さんの追伸内容が劣情を掻き立てる文面だったのか、あるいは風師さんをじかに眺めて、その姿に惚れたのか……」

「掃除中に一回、鉢合わせました」

「なら、そのときでしょうね。風師さんはのろまなドジっ子さんですから、掃除が遅れたせいで姿を目撃されたわけですね」

 のろま。ドジ。さり気なく発せられた言葉が胸に刺さる。