見ればもう、壁にかかった時計の針が十二時を回っている。業務にかまけるうち、あっという間に昼休みを迎えていた。
時計店にも昼休憩がある。十二時から十三時まではいったん『準備中』に札を返して、店長と二人きりで羽を伸ばす。
普通の雑貨店ならいちいち閉めないだろうが、そこは個人経営店ならではの時間配分だった。商店街でも一部の医院や店舗は昼休憩を取るので、珍しくもない。
「風師さん、何かお困りですか?」
やんわりと問いかける店長の笑語は、時花にとって最後の砦だった。
切羽詰まった窮地にもたらされる、一筋の光明。
店長の存在がいかに頼もしく、かつ心の支えになっているのかを改めて痛感した。
「て、店長~っ!」
だからつい、すがり付いてしまった。
メールの再読さえ忌避する時花は、店長にしがみ付いたまま顔をうずめ、指でパソコンを差し示す。
「男性のお客様から、馴れ馴れしいナンパメールが来たんです。私を異性として意識したような、デートに誘う口説き文句が列挙されてて……私、怖いです。どうすれば良いですかっ?」