一瞬だけ好色そうな眼光で、時花を視姦する。

 だが、すぐにそれは引っ込んで、元のお坊ちゃん然とした表情に戻っていた。

 気のせいか――?

 ともあれ嵐は過ぎ去った。

 街路から見えなくなって、ようやく時花は我に返る。

「うーん、見れば見るほど、奇妙なカップルでした……」

 男性の服は本物の高級ブランドっぽかった。

 なぜ女性客だけ偽物を着ているのか。

 そのくせ、本物のロレックスを彼氏のために買おうとしている――。

「風師さん、掃除は終わりましたか?」

「ひゃあっ! 店長!」

 やおら横手から声をかけられた。

 入口に店長が立っている。時花は心臓が飛び出るほど吃驚(びっくり)した。実際に飛び上がったのは心臓ではなく両足だったが、飛んだ勢いで塵取りの中身をぶちまけるという失態(ドジ)をやらかしたのはご愛嬌か。今なら垂直跳びの最高記録を更新できそうだ。

 店長は腰に手を当て、譏笑(きしょう)を漏らした。

「風師さんの手が止まるのも無理ありませんね……今の青年客は、僕も存じています」