ミツトシ君――それが彼氏の名前らしい。

(名前呼び!)ちょっと羨ましい時花。(懇意の人には下の名前で呼び合うのが理想ですよね……私も店長に、名前で呼ばれたいです……って、話がそれちゃいましたね)

 カップルの毒気にあてられて、妙なことを考えてしまう。自然と顔が緩んだ。

 しかし、偽物ブランドで見栄を張るような人物なのに、ロレックスを買えるのか? そうまでして青年に尽くしたがる女性客が、ますます謎めいて仕方がない。

「この店は俺もよく利用してるよ。今付けてる腕時計も、ここで買ったんだ」

 そうだったんですか……時花は意外な情報を耳に入れた。

 女性客はウフフとうわべだけ笑って返した。

「知ってるわよ。他にも下見してる所があるから、買うのはもう少し待ってね?」

「ははは、了解。クリスマスを楽しみにしてるよ」

 男女はショー・ウィンドウの前から再び歩き出した。

 何だ、買わないのか。まだイブまで何日かある。それまでにじっくり決めるのだろう。

 去り際、掃除を終えた時花と二人がすれ違う。

 女性客は今の会話を聞かれていたことに勘付いて、気まずそうに歯噛みした。

 青年はと言うと、そんな恋人には見向きもせず、時花の楚々とした佇まい――単にドジを踏まないよう大人しく振る舞っていただけだが――に目を奪われた。