青年は良家の御曹司めいたいでたちだった。イギリスのスーツブランド、ダンヒルのオーダーメイドだ。首元にはシルバーアクセサリのペンダント、右手首にはブレスレット。どちらもクロムハーツの高級品だ。耳のピアスにはダイヤモンドが埋め込まれ、袖のカフスボタンもダイヤモンドが輝いている。足下はクロケット&ジョーンズの革靴だ。
左手首にはロレックスの腕時計を巻いている。風防がサファイヤ・クリスタルで出来た人気モデル『デイトジャスト』だった。価格は百万円を下らない。
(すでにロレックスを持ってるじゃないですか)
時花は口を開けっ放しにした。
青年は本物のブランドだろうか? 高級ファッションに身を包んでいる手前、ロレックスを収集するのが趣味だとしても不思議はない。
男はまず時計を見よ、という言葉もある。時計に金をかけられる男が強いのだ。
「もう俺も大学四年、今年で卒業だからな。学生最後の記念に、人気モデルのエクスプローラーが欲しかったのさ」
「それ、アタシが買ったげるってば!」
女性客が軽口を叩いている。やはり恋人へのクリスマス・プレゼントなのだ。
「アタシたちが付き合い始めたときにはもう、すでに内定もらってたみたいだからお祝いし損ねたけど、今度こそミツトシ君に就職祝いを贈りたいの!」