考えるまでもない。昨日聞いたばかりの、記憶に新しい女性客だ。

(全身ヴィトンの女性!)

 昨日は下見だけだとぬかしていたが、ここで買う決心が付いたのだろうか?

 ロレックスのエクスプローラー、六五万円の品を。

「ああ、ここか。俺知ってるよ」

 同伴者は若い青年の声だった。

 女性客の彼氏(カレシ)だろう。意中の彼にプレゼントを買うのが女性客の目的だから、二人で下見に来たとしても不思議ではない。

(むむむ、恋人を連れて来られると腹が立ちますね……公共の場でイチャイチャと……)

 時花は言いようのない劣等感を押し付けられて、一人へこんだ。

 背後で繰り広げられるカップルのウィンドウ・ショッピングは、さながら宇宙人とのファースト・コンタクトよろしく得体の知れない怪異だ。

(どんな殿方なんでしょうか……)

 時花は掃除する挙動にかまけて、ちらりと盗み見た。

 全身ヴィトンの女性と並び立つ彼氏は――。

(わぁ! 男性も立派なブランド物に身を固めてますねっ)

 時花は目を剥いた。掃除の手が止まりそうだった。