場末にぽつんと建っている古物時計店へ、朝イチから並ぶ庶民はめったに居ない。クリスマス商戦といえども、混雑するのは昼を過ぎてからだ。
「すぐに実行します~っ」
竹箒と塵取りを掃除用具入れのロッカーから引っ張り出し、時花は店の外へ出た。
ドアベルが軽やかに鳴る。
入口にかけられた『準備中』の札を『営業中』に引っくり返すのも忘れない。
午前中はまだ寒く、人通りも少ない。時花はスーツが埃で汚れぬよう注意しながら――そうでなくともピンヒールでつんのめって服を汚しそうだ――竹箒で掃いた。
禿げ上がった街路樹は、枯れ葉を大量にばらまいている。他にも紙屑やビニール袋と言った、商店街の中心地から飛んで来るゴミが場末に溜まりやすい。
「この店でロレックスの腕時計が売られてるのよーっ!」
時花の後方から、女性の黄色い声が響いた。
客が来た! 時花は竹帚を投げ捨てそうになる。開店直後は客が来ないと高をくくっていたのに、来てしまったのだ。
客は、ショー・ウィンドウ越しに店内を覗き込む。
しかも、誰かに話しかけている。同伴者が居るらしい。
(聞き覚えのある声ですね……もしかして)