「僕はブランド品の鑑定士でもありますから、何となく判るのです。あのお嬢様がお召しになられていたルイ・ヴィトン一式は――本物そっくりな偽物ですよ」
「ええええっ! 偽物!?」
店長はいつだって、目ざとく客を観察している。ブランド品の質入れに携わっている都合上、顧客の装いにも造詣が深くなる。
「シャネルやヴィトン、カルチェ、ブルガリと言った女性ブランドは特に、偽物が安く出回っています。恐らく大陸から流入した地下マーケットの産物でしょう」
「どうしてそんなものを……」
「見栄を張りたい人が買うそうですよ。ときどき本物と間違える方も居ますけど」
「ひええ」
「はてさて、偽物で粉飾するお嬢様が、恋人には本物の時計を買いたがる理由とは?」
――クリスマス直前に訪れた、謎めいた女性客。
厚かましくも取り置きを頼まれたロレックスの人気モデル・エクスプローラー。
新たな日常の謎が幕を開けようとしていた。
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