「エクスプローラー214270は、文字盤の数字3・6・9にもクロマライト夜光が塗布されており、暗い場所でも視認性が向上しました。さらに時針と分針が従来より長く太い針へ変更されたことも、改善点に挙げられます」

「ふーん、詳しいわね。じゃあそれを一つ――」

 やった、喰い付いた。

 さっそく買っていただけるのかと、時花は心の中でガッツ・ポーズを取った。

 朝から売れ行きが伸びるのは、気分が良い。接客スキルが向上した証でもある――と、思い上がっていた。

「それを一つ、取り置きしてくれないかしら?」

「…………はい?」

 取り置き?

 てっきり即決で購入される流れだと思いきや、想定外の言葉をぶつけられた。

 取り置きと言えば、前回もそんな客と揉めたばかりだったので、嫌な予感を拭えない。

「えぇと、取り置きとはどういう……」

「取り置きは取り置きよ! アタシ、今日は下見に来ただけだから、他の店も見て回りたいのよ。クルマだって複数の店を見てから、どこで買うか決めるでしょ? それと同じ」

「は、はぁ」