ショー・ケースの真ん中に鎮座するモデルへ案内した。

 広めにスペースを割かれたロレックスの中でも、さらに品ぞろえが強化されているものが『エクスプローラー』である。

 主な価格帯は六〇~八〇万円。三桁万円は超えない。手頃な価格が人気なのだ。

 派手さのない実用的なデザインは、シンプルでごつくない。それでいてメタリックな光沢は高級感があり、人の目を引く。ビジネスでもプライベートでも使える万能品だ。

「あ~それそれ! カレシもそんな品名を呟いてたわ」

 女性客は曖昧に相槌を打った。

 カレシの発音が妙に平べったい。案の定、恋人へのプレゼントかと時花は認識した。

「こちらのエクスプローラー214270は、男性客に喜ばれているモデルです」さり気なく勧める時花。「価格帯も六五万円で、お手に取りやすいと評判でございます」

 実際、エクスプローラーは品薄が続く人気商品だ。

 年末には注文がパンクすることでも有名で、入手困難に陥る店舗も続出する。当店が穴場だからこそ、たまたま在庫が残っていたとも言える。

「他のモデルとどう違うの?」

 女性客がさらに詰問した。

 時花は店長に見守られる手前、商品説明を(そら)んじる。