時花一人でどれほど接客できるか、試すのも悪くない。
いかにも富豪の令嬢と言った女性客は、小首を傾げて尋ねた。
「んーと、ロレックスってどこ?」
来た、ロレックス。
売れ筋ブランドは指名率も高い。時花は「こちらでございます」とてのひらで示してから、先導した。
途中、店長とすれ違う。店長はにこやかに客へ頭を垂れるだけで、口を挟まない。
女性客は店長の美貌に目を奪われて「あっちの人に接客して欲しかったな」と言いたげな表情を見せたが、明言されたわけではないので時花は無視した。
「ロレックスで一番人気あるのって、どれ?」
女性客が雑な質問を投げた。
彼女自身は詳しくないようだ。女性用ブランドを着飾っていても、男性用ブランドはさっぱり……という人は多い。
時花はちらりと店長を一瞥したが、彼は助け舟を出さない。やれる所までやってみなさいと目で訴えている。ならば、やるしかない。
「ロレックスですと、主なモデルはデイトナ、サブマリーナ、GMTマスター、デイトジャストなどがございますが、最も手に取られているのはエクスプローラーになります」