そこまで話すとドアベルが鳴った。新たな来客だ。時花はもっと二人で居たかったが、やむを得ず言葉を切る。今は勤務中なのだ。
さて、この客人は何を入り用で、どんな事情を抱えているのか――。
現れたのは、うら若き女性だった。
やや童顔で、時花ほどではないが小ぶりな体格だ。目が大きく見えるのは化粧の技だろう。髪は短いがヘアピンで前髪を上げており、小ざっぱりしている。
(わ、高そうな服とかばん……)
まだ若いのに、ルイ・ヴィトンの服飾で身を包んでいる。
コートも、インナーも、スカートも、ブーツも、手提げかばんも、何もかもルイ・ヴィトンだ。ブランド品で統一した佇まいは、お金が歩いているようなものだった。
「いらっしゃいませ」
時花は平静を装って一礼した。
ヴィトンに気を取られぬよう、頭を冷やす。こういう高価ないでたちの客は、礼儀にもうるさい。きちんと応対しないと、どんな嫌味を言われるか判ったものではない。
(さすがはブランド時計店、お金持ちが大勢いらっしゃいます……どうしましょう?)
いっそ店長に接客を丸投げしても良さそうだったが、まずは会釈した時花自身が応対するのが筋だろう。