「あぁ~……納得です」
紳士服売り場に主婦が群がるのと同じ心境か。
そうこうするうちに開店時刻を迎えた。こんな場末にも関わらず、今日は普段より客足が多い。クリスマス商戦さまさまだ。
道行く人もショー・ウィンドウから店内を覗いている。購買に至らないまでも、商品に興味を持つことは歓迎だった。いずれ入店するかも知れないから。
「先日は二六四万円のオメガが売約済みになりましたけど」ふと思い出す時花。「クリスマスはそういうのがどんどん売れるんですか?」
「いつもよりは動きますよ」
店長はおどけて片目をつぶった。
ちょうど客足が落ち着いた頃を見計らって、おおまかな案配を打ち明ける。
「と言っても、二〇〇万円を超えるのは数件ですね。やはりメインは五〇~百万円の価格帯です。一〇〇万円を超えるとさすがに敷居が高いようです」
店長はすらすらと商品事情を語った。さすがは事業主、客層を完璧に把握している。
やっぱり店長は頼もしい。どんなときも笑顔を絶やさず、聞きやすい温和な口調で心身を癒してくれる。安らげるし、居心地も良いし、ますます好感度が高まった。これもクリスマスにほだされた効果だろうか。