ヒール込みでも身長一六〇センチに届かない彼女は、数ヶ月のヒキコモリ生活から脱却するための門出を、どうにか果たす。
『風師』
と記された自宅の表札を通り過ぎる。
「風師時花、がんばりますっ!」
時花は両手でガッツポーズを取った。
……直後、左右ともに手ぶらであることに気付いたが。
「おーい時花! かばん忘れとるぞ!」
父がサンダルを突っかけ、通勤かばんを持って来てくれた。
時花は顔を真っ赤に染め、かばんを受け取って踵を返す。恥ずかし過ぎる。逃げるように歩き出した途端、さっそくヒールがつまずいた。
「はうっ」
「……時花、駅まで車に乗せてってやろうか?」
「お、お願いします……」
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