店長はすでにスーツ姿である。

 足下のダンボール箱から電飾を引っ張り出しては、あちこちに設置して行く。

「かしこまりましたっ」

 時花も急いで更衣室へ飛び込み、店から貸与されたスーツに着替えた。タイトスカートで体のラインが出るものの、細身の彼女には合っている。

(店長に当日、渡せますように……)

 ロッカーにプレゼントを置いておく。

 今のうちから持ち込んでいれば、当日になって家に忘れる心配もない。時花ならではのドジを防止する対策だった。

「電飾たくさんありますね、今月の電気代が心配です」

 いかにも経理っぽい懸念を示しつつ、開店の準備を手伝う。

 装飾の際にゴミも出るから、開店前の清掃が大変だった。店長は栗毛の前髪を手で払うと、にこにこ顔で頷く。

「そうですね。ですが、それ以上の見返りが見込める時期です。我らが『時ほぐし』も書き入れ時ですよ。中でもロレックスは女性からの問い合わせが増えます」

「女性ですか? うちはメンズ中心なのに……」

「彼氏や旦那さんにプレゼントすべく、有名ブランドの詳細を尋ねるのですよ」