男性用衣類なんて、父親の服を洗濯するときしか触ったことがない。

 学生時代からぽややんと過ごして来た彼女にとって、色恋は無縁だった。思い返せば男性からアプローチされた記憶はあるが、持ち前の鈍さでことごとくスルーしていた。

(安いのは駄目ですが、高すぎるのも無理ですね……私の財布がピンチです)

 時花は元ニートだから、手持ちが少ない。

 現在の仕事だって、まだ初任給をもらっていない。

 それでも店長は一目惚れした初めての異性だから、プレゼントを買いたい。

 売り場を歩く途中、タイピンやカフスボタンと言ったアクセサリも目に入ったが、時花の手が届く予算ではなかった。第一、店長の召し物はアルマーニのオーダーメイドだ。何十万もするダブルスーツに、デパートのタイピン程度では不釣り合いではないか?

(そうだ……店長は二階で寝泊まりしてますから、パジャマや寝具はどうでしょう……)

 安直に思い付いた。

 迷っていても仕方がない。これ以上の逡巡は時間の無駄だ。

(普通のパジャマではなく、ナイトガウンやバスローブのような、ちょっと気取った感じの寝巻きにしましょう……あとナイトキャップ!)

 包装をクリスマス仕様にしてもらい、お金を払って退店する。

 あとは当日に手渡しするだけだ。