(店長が喜ぶものって、何でしょうか……)
売り場をうろつきながら、時花はあれこれ目移りした。
何を買うか決まらない。最初はアレにしようと決心しても、他の売り物を見るとソッチが良いかな~と心が揺らぐ。
時花はのろまで、優柔不断だ。
フロアを周回する都度、人とぶつかったり、展示物に服やかばんを引っかけたりと、いちいちドジを踏む。傍から見て、これほどそそっかしい人物も居まい。
(そもそも私、店長が欲しい物は何かとか、趣味は何かとか、知らないんですよね……)
まだ出会ってから一ヶ月も経っていない。仕事上の接点しかない。
店長は店の二階で暮らしているが、時花は立ち入ったことがない。店長の私生活が杳として知れないのは、彼のガードが固いせいか、時花が鈍いせいか――たぶん両方か。
(男性はこういうとき、何を受け取ると嬉しいんでしょうか……?)
ひとまず衣類を手に取ってみるが、安物は極力避けた。
店長はブランド時計を扱う手前、高級なイメージが強い。無論、それは仕事だけの話かも知れないが、そもそも想い人へのプレゼントを安物で済ませたら失礼だ。
(店長は痩身ですけど、身長はやや高めですよね……となると、服はMかLサイズのどっちでしょう? うーん、男性の服なんて初めてですから、ちんぷんかんぷんです……)