「え~……? 店長、それ仕組んでませんか? 私のそそっかしい性格を利用して、規則を破る建前にしましたね?」
店長の思惑を察した時花と、わけが判らず成り行きを見守る学生が、対比的で滑稽だ。
「さて。何のことやら? はっはっは」
しらばっくれる店長は、芝居がかった仕草で呵々大笑した。
絶対わざとだ。絶対。
店の規則では前金不足だが、店員のミスということでうやむやのうちに処理し、やむを得ず取り置きを成立させるという体裁を採ったのだ。
「というわけで、前金二〇万円を大至急、引き出して来ていただけますか?」
「いいのか! ありがとよ……恩に着るぜ……マジでありがとう……!」
学生が、売約を結べた喜びに舞い上がった。
店長と時花を拝み倒し、涙ながらに感謝を述べる有様だ。
(私のドジも使いよう、ってことでしょうか?)
欠点でしかなかった『ドジ』さえも、店長は有効活用してみせた。
利点へと昇華してくれたのだ。そこに彼の懐の大きさと優しさを感じずに居られない。
「じゃあちょっくら、前金と印鑑を取りに行って来る!」
学生は涙を拭い、一目散に店を出て行った。