「た、頼む! そこを何とか!」

「しかし規則は規則ですので……というわけで風師さん、この契約書を処分して下さい」

「え? で、ですが店長っ。それはお客様の要望を見捨てる行為(・・・・・・・・・・・・・)なのでは?」

 時花も難色を示した。

 学生の力になってあげたい。無茶は承知だが、彼の想いを切り捨てるのも可哀相だ。

(そんなことしたら、店長が辞めた大企業と同じじゃないですかっ!)

 だが店長は、冷淡に薄ら笑いを浮かべるのみだった。

「風師さん、早く処分を。これは業務命令です」

「うっ……は、はい……」

 やむを得ず、時花は申し訳なく歩み寄った。

 店長から契約書を受け取り、レジの奥へ持ち帰る――。

「おっと危ない!」

 ――はずだった。

 店長が唐突に、時花の足下へ爪先(つまさき)を突き出したではないか。

「きゃあっ!」

 時花は咄嗟に回避できず、店長の足につんのめった。彼女は愚図でのろまで鈍臭い性格だから、かわしようがない。

 転倒しそうになった時花を、店長が示し合わせたように回り込んで、仰々しく抱きとめる。実にわざとらしい動きだった。何がしたいのだ、この偏屈な店長は?