「学生さん」向き直る店長。「あなたは所持金が少ないとのことですが、現時点で自由に動かせる金額はいくらありますか?」
店長は時花から手を放し、スーツの内ポケットから一枚の紙を取り出した。
四つ折りにされていたそれを、おもむろに広げてみせる。
『売約に関する契約書』
と記されていた。
ついでに反対の手には、これまた懐中から店舗の印鑑がひけらかされた。
公の契約に用いられる、正式な届け出印だ。そんなものを仕込んで来た辺り、店長は薄々こうなることを予期していたのだろう。
書面はすでに記入事項が全て埋められており、あとは判を押すだけの状態だった。
「前金の支払い次第では、売約済みとして商品を取り置きしておきましょう」
「マジか!」
「当店の規則では、前金は現金払いのみで、本体価格の一割~五割が目安です。二六四万円の一割ですと、二六万四千円からですね」
「うっ……今の俺が動かせる金額は、個人口座を引き出しても二〇万円が限界だ……」
「うーん、足りませんね」契約書を引っ込める店長。「さて、どうしましょう……当店にも決まりがあるので、これ以上の融通は利きませんよ」