拳を握ってわななき、両目をぎゅっと閉じ、唇を噛んで、肩を震わせた。
「親父の火葬は、壊れた時計も納棺された。墓まで持って行くほど大事だった宝物に、俺は初めて興味を持った。で、調べたら――」
調べたら、前述した情報が浮かび上がったわけだ。
オメガと宇宙飛行士の関係。
七月二〇日の符合。
「――俺はようやく、親父の気持ちが理解できたんだ」
だから学生は、オメガの知識だけ妙に詳しかったのだ。
しかし、彼には一つ誤算があった。値段である。
「調べれば調べるほど、オメガの時計がクソ高いことを思い知ったぜ。しかも壊したモデルはレア中のレアだ。それが、こんな場末の店に一個埋もれてたとはな。超穴場だった。見付けたとき、絶対俺が買って親父に詫びなきゃいけないって直感したんだ」
「時計を弁償しようとしたのですね?」
ものを壊したら弁償する。当たり前の補填である。
(うちのワイングラスと同じですね! お父さんのお話と共通する心理……!)
けれども今回は、弁償の敷居が高すぎた。数百万円もの値打ちがある時計を、一介の学生がおいそれと購入できるはずもない。