店長の談笑がやや曇った。学生はじっと店長を見返す。

「四〇歳を超えた辺りから体調を崩してさ、何年か過ぎたら癌を患って、今年ぽっくり逝っちまったんだよ。親父の野郎、仕事を辞めて闘病する間も、ずっと宇宙のことばっか話しててさ。腹が立ったぜ。こちとら大黒柱が収入を失って、生活が困窮してたのによ」

 学生は愚痴を吐いた。道理で先日「家の事情で信用情報がない」と話していたわけだ。

 父を憎んでいるのだろうか?

 だとしたら、どうして父の誕生日にちなんだ時計を買いたがるのかが説明できない。

「親父はそれと同じモデルの時計を、すでに持ってたんだよ」

「何と。この激レアモデルがもう一個、日本にあったのですね?」

「ああ……俺はさ、そんなもん売り払っちまえって怒鳴ったんだよ! 親父は病気で退職し、保険や退職金は出たけど、それでもまだ金が足りなくてさ。親父の医療費、そして家族を養う生活費がまかなえなかったんだよ! 毎日苦しかったんだ!」

 貧乏生活への転落。

 せめて金目のものを売って、生活費に換えた方が良い。

 オメガのスピードマスターともなれば、結構な食い扶持になるだろう。