店長は一歩、学生に近寄った。

 喜色を貼り付かせたまま肉迫する美男子は、傍から見ると恐ろしい。壁際に追い詰められた学生は、しどろもどろに目を泳がせた。背中が壁にぶつかり、軽くむせる。

「な、何だよ、解明って? お前が言い当てるってことか?」

「はい。お客様がスピードマスターを求める理由――それは」学生の耳元に顔を寄せる店長。「親御さんが七月二〇日生まれ(・・・・・・・・)だから……ではございませんか?」

「な……なんで判るんだよ!?」

 学生は顎を外しそうになった。

 傍観する時花には会話が把握できない。

(親御さんのお誕生日? それがどうして学生の購入動機に繋がるんです?)

 時花が鈍いだけかも知れないが、説明が不足しているのも事実だ。

「七月二〇日は、オメガにとっても特別な日です。一九六九年の七月二〇日は、アポロ十一号が月面着陸した日(・・・・・・・)なのですから!」

「!」

 店長が――最後の方は時花を一瞥して――高らかにのたまった。

「ええっ? そうだったんですかっ?」

「知らないのも無理ありません。今となってはマニアの間でしか語られませんからね」