(あんな素敵な言笑(げんしょう)で挨拶されたら、女性はおろか男性だって落ちちゃいますよね……)

 かく言う時花も、すっかり彼に篭絡された一人なのだが。

「で? 俺に話って何だよ?」

 学生は決して目を合わせず、所在なげにそわそわと体を揺すった。

 ハイソな店の雰囲気にそぐわないカジュアルな容姿なのは、相変わらずだ。時花も衣装を貸与されなければ彼と同類の庶民なので、内心では親近感を抱いている。

「お客様は、喉から手が出るほど欲しい商品があるそうですね?」

 店長は半歩だけ身を引き、背後にあるショー・ケースを視認できるようにした。

 学生はそのさり気ない所作に圧倒されつつ、おっかなびっくり一歩近寄る。

「まぁ、店長なら話は早いか。頼む! あそこにあるオメガのスピードマスターを、俺の予約ってことで取り置きにしてくれないか?」

「なるほど。うちの風師から伺った通りですね」時花を一瞥する店長。「まずは、それに関していくつか質問をさせていただいてもよろしいでしょうか?」

「質問だぁ? 何だよ、俺の身元が信用できないとか、そういう難癖か?」

「それもあります。仮に品物を取り置きしたとして、途中でお客様との連絡が途絶えてしまう恐れもございますので、身元の確認は必須です。しかし、それ以上に、なぜお客様がスピードマスターを欲しがるのか……その理由を解明したいのです」