「眠れません……ちょっとお水を飲みましょう……」

 突き当たりの台所で、冷蔵庫を漁る。ちらりと視界の端に明かりが見えたのは、ちょうどそんなときだった。

 隣のリビングで、スタンドライトが灯されている。

「お父さん?」

 見れば、父親が晩酌をしていた。ワイングラスを片手に、ソファでくつろいでいる。

 テーブル中央には赤ワインの瓶、向かい側には同じデザインのワイングラスが置いてあった。そこには誰も居ないのに、血のようなワインが並々と注がれている。

「それ、お母さんの分?」肩越しに覗き込む時花。「お母さんもお酒好きでしたよね」

「おう、時花」グラスを鼻に寄せる父。「母さんが死んでから、毎晩やっているぞ」

「えっ! そうだったんですか?」

「お揃いのワイングラスも結婚記念に買ったんだぞ。これ結構高いんだからな? 最初はなかなか手に入らなくてなぁ。毎日お店に在庫がないか聞きに行ったもんだ」

「買いたい品物のために、何度も足しげく通い詰めたんですか――――……って、あ!」

 時花は奇妙な共通点を感じて、何度かまばたきを繰り返した。

 似ている。欲しいものを手に入れるために店を覗きに行く心理。

「実は婚約したときも揃いの一式を買ったんだが、すぐ壊してしまってなぁ。破局の予兆みたいで不吉だから、必死に買い直して弁償したんだぞ」