時花は申し訳なさそうに挙手した。基礎用語も判らない、新米らしい態度ではある。
店長は嫌な顔一つせず、懇切丁寧に回答するからありがたい。
「オーバーホールとは、修復や換装を意味する言葉です。要するに、僕の手で元通り直しましたよ、ということですね」
「店長は腕時計の修理も出来るんですか? 資格が必要じゃないですか?」
「もちろん取得していますよ」胸を張る店長。「時計修理技能士二級を持っています。事務室のデスクに免状が置いてありますから、あとでお見せしましょう」
「わぁ、楽しみです! 一級じゃなくて二級なのは、何か理由があるんですか?」
「一級は実務経験が七年以上でないと受検できないのですよ。僕は店を開業してまだ三年目……前職の時計メーカーに居た頃を含めても七年に届きません」
「店長って、元はメーカー勤務だったんですか! だから検定を所持してるんですね!」
「…………ええ、まぁ」
そのときだった。
店長は初めて、時花から目をそらした。ほんのわずかだが、ばつが悪そうに顔を背けたのだ。その数秒だけ、彼の取り得である巧笑も失せていた。
沈鬱に塞ぎ込んだような、過去のトラウマをほじくり返されたかのごとき憂い。
「あっ店長、何かお気に障りましたか……?」