店長が腕時計を引っくり返した。彼女は恐る恐る顔を寄せる。
「あ、本当ですねっ。当然のごとく英語で書かれてます……えーと、なになに」
『1969 APOLLO XI‐OMEGA SPEEDMASTER‐』
…………。
…………。
「アポロ十一号?」
時花はぽかんと口を開けっ放しにする。
(え? これってまさか……?)
汗がだらだらと滝のように流れ落ちた。
「気付きましたか?」白い歯を見せて笑う店長。「一九六九年は、アポロ十一号が人類初の月面着陸を果たした年ですよ」
「ええええ! じゃあ、その宇宙飛行士が装着してた腕時計――」
「の、複製モデルです」
「――なぁんだ」
肩透かしだった。いや、それでも充分に貴重な逸品だが。