ごもっともです、と時花も胸の奥で同意した。

 しかし、根っからの時計マニアならば、そんな難癖は付けないだろう。価値の判らない人間がマニアであるはずがない。

 ――詳しいようで、実は詳しくない。

 彼の時計への情熱は、どこから生じたのだ――?

「と、とにかく売らずに残しておけよ! 七月二〇日までには買うから! じゃあな!」

 学生は居たたまれなくなったのか、脱兎のごとく店を退散した。

 かと思いきや、外壁のガラスに貼り付いて、未練がましくオメガのコーナーを凝視していた。去り際も名残り惜しそうに何度も店を振り返りながら、やっと遠のく。

「な、何だったんでしょうか……」

 謎多き客人に、時花は首を傾げるしかない。

 そこへ、店長が一足遅く事務室から戻って来た。店内を見渡し、時花の間抜け面を認めると軽く手を振った。

「ようやく事務が片付きました。僕が店頭に立ちますので、風師さんは休憩に入って良いですよ……って、おや? オメガのコーナーにかじり付いて、いかがなさいましたか?」

「あ、いえ、ちょっとおかしな訪問がありまして……」

「おかしな訪問?」